骨と歯を混同し、「カルシウム不足は歯をもろくする」と考える人は多くいるでしょう。実際に、カルシウム不足によって歯に何らかの影響を与えることは事実です。しかし、カルシウム不足が歯をもろくする直接的な原因というわけではありません。
歯や歯茎とカルシウムの関係について正しい知識を持つことは、虫歯(むし歯)や歯周病予防を進めるために重要です。
今回は、カルシウム不足による歯の影響や虫歯・歯周病との関係を解説します。口内環境が気になる人や痛みを伴うほどの虫歯を予防したい人は、ぜひ参考にしてください。
1.歯とカルシウムの関係性
そもそもカルシウムは、骨や歯をつくる重要な栄養素と言われています。そのため、歯とカルシウムには大きな関係があります。
大人の場合はカルシウム不足が続くと、骨からカルシウムが使われるようになります。しかし、これは大人になってからの話です。
まずは、気になる「子供の時のカルシウム不足による影響」について見てみましょう。
1-1.カルシウムは「永久歯」を無事に育てるために重要
歯の大きな部分を占める象牙質(ぞうげしつ)は、ほとんどがカルシウムです。つまり、歯の部分の多くを占めるカルシウムは、永久歯がつくられる過程で非常に重要な栄養素となります。赤ちゃんから幼児への時期にしっかりした強い歯をつくるためにも、カルシウム不足にならないよう、大人が注意してあげましょう。
また、永久歯はカルシウムで強くなるため、カルシウム不足によって子供の歯が弱くならないよう、カルシウムを十分に摂取させることも重要です。
1-2.エナメル質の「再石灰化」を促すために重要
カルシウムを摂取することは、歯の表面にあるエナメル質の再石灰化において重要となります。エナメル質が溶けて象牙質が露出すると歯の防御力が弱まり、知覚過敏や虫歯・歯周病になりやすくなってしまうのです。
これらの症状を予防するのに重要な「再石灰化」を促すためには、カルシウムの摂取が欠かせません。再石灰化とは、溶けたエナメル質部分を自動的に修復し、強い歯に戻してくれるという働きのことです。
子供の場合はエナメル質が薄いため、小さなことでエナメル質が溶けて象牙質が露出してしまいます。口内の唾液に含まれるカルシウムで再石灰化ができるように、カルシウムを日ごろから摂取しておくことは非常に重要です。
2.カルシウム不足で歯はもろくなる?
結論を先に述べると、カルシウム不足で歯がもろくなる事象は原則的に起こりません。しかし、慢性的なカルシウム不足が歯周病リスクを高めることがあります。
歯周病は、歯垢内の細菌が歯肉炎や歯周炎を引き起こすトラブルです。重度の歯周病に進行すると歯肉溝が深くなり、抜歯が必要な状態にまで陥るケースが存在します。
慢性的なカルシウム不足は、骨粗しょう症を引き起こす原因です。骨粗しょう症とは、古い骨が新しい骨へと生まれ変わるサイクルが乱れ、もろくなる状態を意味します。骨粗しょう症患者は顎骨・歯槽骨も溶けやすい状態であるため歯周病リスクが高く、意識的な予防処置が必要です。
また、慢性的なカルシウム不足による口内環境の悪化は、虫歯を招く原因にもなりえます。慢性的なカルシウム不足が、口内環境の悪化や虫歯リスクを高める原理を知って、歯の健康状態を良好に維持するコツを探りましょう。
3.カルシウム不足による口内環境の悪化が「虫歯」につながることも
口内では常に、歯の再石灰化(唾液内のカルシウムが歯のエナメル質を修復すること)・脱灰(虫歯の原因菌が酸を吐き出し、エナメル質を溶かすこと)の両方が行われます。カルシウム不足によって再石灰化が妨げられると、再石灰化・脱灰のバランスが崩れ、虫歯リスクが高まります。
また、歯の再石灰化は初期虫歯を修復する作用も担います。歯の再石灰化に支障があると初期虫歯を修復するチャンスを失い、重症化する可能性も否めません。
3-1.初期虫歯は再石灰化で修復できる
ここで、初期虫歯と歯の再石灰化の関係をより詳しく解説します。
初期虫歯とは、歯の中のカルシウムやリンなどのミネラルが溶け出し、密度の低下が確認される状態です。カルシウムなどの溶け出した部分には、「ホワイトスポット(※)」と呼ばれるトラブルが起こります。ホワイトスポットをそのまま放置することで、重症化するおそれがあります。
※ホワイトスポットとは
- カルシウムなどの溶け出した部分が白濁して見えるトラブル
- 初期段階の虫歯を示すサイン
- X線写真で見ると健康な歯と比較し、暗く見えることが特徴
初期虫歯は、唾液に含まれるカルシウムなどによる再石灰化で修復可能です。カルシウム不足の状態では再石灰化がスムーズに進まず、ホワイトスポットが放置されることにより、象牙質まで達するほどの虫歯につながる恐れがあります。
さらに虫歯が進行すると、根管治療や抜歯が必要とされるほどの症状につながるケースがあるため、注意しましょう。
3-2.「喫煙」は再石灰化作用に悪影響を与える
再石灰化を妨げる要素は、カルシウム不足以外にも存在します。たとえば、喫煙習慣です。喫煙者は非喫煙者と比較し、虫歯や歯周病リスクが高いと言われています。
喫煙習慣によって虫歯や歯周病リスクが高まる理由は、大きく分けて3点です。
①唾液の量が減少するため
タバコに含まれるニコチンは、唾液の分泌量を減少させる作用を持ちます。唾液の分泌量の減少は歯の再石灰化を妨げ、虫歯リスクを高めてしまう要因です。唾液の量が少ないことは、カルシウム不足よりも虫歯に対する影響が大きいとも言われます。唾液の分泌量が減少すると、口内の自浄作用に不具合が生じ、歯周病リスクが高まることも問題です。
②ヤニ(タール)に歯垢が付着するため
タバコのヤニが歯に付着すると、簡単には落ちません。付着したヤニに歯垢がこびりつき、落ちない状態が続くと、虫歯リスクは高まります。また、タバコのヤニが、食べ物の汚れや虫歯菌を吸着する働きを持つことも問題です。結果として虫歯や歯周病リスクが高まり、トラブルを引き起こすケースがあります。
③血行不良や免疫力を下げるため
タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、血行不良や免疫力の低下を招く要素です。血行不良や免疫力の低下は、歯周病の発症や進行を招いてしまうことがあります。細菌に対する抵抗力の低下した状態は通常以上に傷の治りが遅いため、トラブルが広範囲に広がったり治療効率が下がったりする状況にもなりかねません。
喫煙習慣・慢性的なカルシウム不足の両方に心当たりのある人は、歯周病を起こすリスクが特に高く、意識的な対策が必要です。虫歯も歯周病も、最終的には自分自身の歯を失うリスクの高い、深刻なトラブルに該当します。
自分自身の歯をいつまでも残すためにも、カルシウム不足には注意し、十分量を摂取するよう心がけましょう。
4.虫歯予防は再石灰化の促進が大切!今日からできる取り組み3つ
重症虫歯ができてしまうと自然に治すことは難しく、歯科医院における治療が不可欠です。治療が必要な状態となることを回避するためには、生活習慣の見直しにより、歯の再石灰化を促すことが大切です。
ここからは、歯の再石灰化を促進するために今日からでも実践できる取り組み3つを紹介するため、虫歯を予防したい人はぜひ参考にしてください。
4-1.口腔内の洗浄に「フッ素」を利用する
再石灰化の促進には、フッ素入り(フッ化物入り)の歯磨き粉やフッ素洗口液、フッ素ジェルを活用する方法がおすすめです。フッ素洗口液は市販されていないため、歯科医院で処方を受けてください。
フッ素イオンが口の中に存在すると、歯の中から溶け出した成分の吸収が促進され、再石灰化がスムーズに進むと言われています。歯磨き粉や洗口液、ジェルなどを日常的に利用しながら、虫歯を予防しましょう。
また、フッ素に含まれる結晶が歯の成分と結びつくと、酸に強く、壊れにくい性質に変わります。結果として虫歯菌(ミュータンス菌・ミュータンスレンサ球菌)の吐き出す酸に負けない、強い歯をつくることが可能です。
より万全を期すためには、3ヶ月に1回の頻度で歯科受診し、フッ素塗布(フッ化物塗布・フッ素歯面塗布)を受けてください。歯科医院で使用する塗布剤はフッ素濃度が高く、虫歯予防効果を一定期間持続させることができます。
4-2.唾液の分泌量を増やす
食習慣や生活リズムの見直しによって、唾液の分泌量を増やすことも、再石灰化の促進に有効です。具体的には下記のような対策を実践して、再石灰化を促進しましょう。
- 歯ごたえのある食べ物をよく噛み、食べる
- シュガーレスガムを噛む
- 規則正しい時間に就寝し、起床する
- ストレス解消の習慣をつくり、リラックスする
- 唾液腺マッサージを実践する
唾液腺マッサージとは、耳の下・顎下・顎先に位置する唾液の出やすいポイントを刺激して、口の自浄作用を働かせるセルフケアです。たとえば、耳の下の「耳下腺」を刺激する際には、耳の横に手を添え、後方から前方に向かって大きな円を描くように動かしてください。顎先の「舌下線」を刺激する際には、両手の親指を顎下にあて、舌を押し上げるように力を入れます。
また、バランスの良い食事や規則正しい生活習慣は何よりも重要と言っても過言ではありません。生活リズムが乱れている方は、まず毎日の生活習慣を正すことから始めてみましょう。
4-3.カルシウムをしっかり摂取する
カルシウムは、不足することによって口内環境を悪化させ、虫歯や歯周病リスクを高める栄養素に該当します。再石灰化をさらに促進させるためには、日々の食事に「カルシウム」を取り入れ、意識的に摂取する習慣をつくることも大切です。
カルシウムは、吸収率の悪い栄養素に該当するため、過剰摂取に陥るリスクは低いと言えます。その反面、こまめに摂取しなければなりません。栄養の偏った食事や加工食品の取りすぎなどでさらに吸収率が悪くなるため、カルシウム豊富な食べ物・飲み物を日々の食事に取り入れながら、食習慣の改善にも努めましょう。
5.カルシウムで歯を育てるために知っておきたい食べ物・飲み物
カルシウムが含まれている代表的な食品は、下記のとおりです。
- 牛乳・卵・チーズ・無糖ヨーグルトなどの乳製品
- ひじき・わかめ・海苔などの海藻類
- いかなご・いわし・煮干しなどの魚介類 等
その他にも、さまざまな食べ物・飲み物にカルシウムが含まれています。
小魚など基本的に骨をまるごと食べられるようなものや、乳製品全般、乾物系などにはカルシウムが多く含まれています。最近では食が欧米化したため、摂取できるカルシウムが減っている可能性があります。チーズなどの乳製品だけでは不足してしまうリスクがあるため、和食も組み合わせながらバランス良くカルシウムを取り入れましょう。
海苔やひじき、わかめ、煮干し、いわしなどを使った和食を心がけた方が、トータルで摂取できるカルシウムを多くすることが可能です。カルシウムは吸収率が悪いことが特徴的なため、まずはさまざまな食品から少しずつ摂取するなど、不足しないよう工夫して取り組んでみてください。
しかし、「カルシウムの摂取が大切とは把握していても、忙しくてなかなか摂取できていない!」という人も多いでしょう。このような場合は、お弁当の時に和食を選ぶようにするなど、ちょっとしたことを心がけてみてください。
また、子供がいる場合は特にカルシウムを十分に摂取できるメニューを実践し、お子さんの永久歯を丈夫で健康な歯に育てましょう。
まとめ
基本的に、カルシウム不足が直接的な原因で歯がもろくなることはないものの、口内環境が悪化するリスクが高まります。口内環境の悪化が進めば、虫歯だけでなく歯周病などが発生しやすくなります。
口内環境を良好に維持するためには、フッ素を利用したり唾液の分泌量を増やしたりして、再石灰化を促進する対策を講じることがおすすめです。
重度の虫歯や歯周病に陥る手前の段階で適切な対応を取ることは、自分自身の歯を守るために大切な意味を持ちます。ここまでの内容を参考に、家庭における虫歯予防(むし歯予防)に活かし、ぜひ歯や歯肉のトラブルを防いでください。