歯ぎしりは歯をすり減らしてしまう可能性もあるため、早期の改善が重要と言えます。しかし、歯ぎしりの癖は、意外と自分では気が付きにくいものです。実際に、歯科医院あるいは一緒に暮らす家族から指摘されて初めて気付いたという人もいるでしょう。 とは言え、歯ぎしりと歯の寿命の関係を具体的に知らないという人は、多くのいるのではないでしょうか。 そこで今回は、歯ぎしりと歯の寿命の関係から、歯ぎしりのデメリットと治療法まで詳しく解説します。歯ぎしりに悩んでいる人は、早期に治療を始めるためにもぜひ参考にしてください。
1.歯の寿命と歯ぎしりとの関係とは?
歯ぎしりは、歯をすり減らしてしまう原因ともなるため、当然その癖は歯の寿命にも影響します。しかし、オーラルケア意識が高い人がよく行う「徹底したブラッシング」や「定期的な歯石クリーニング」も、歯周病になる・歯が割れる・骨が溶けるなどの危険性を上げてしまう要因なのです。
そもそも歯ぎしりとは、上下の歯をこすり合わせてしまう癖のことです。よくイメージされる「上の歯と下の歯を、音が出るほどこする」だけでなく、「噛み締める・歯をカンカンと鳴らす癖を組み合わせた習癖」もまとめて歯ぎしりという場合もあります。
歯ぎしりの癖は、主に睡眠中に現れます。硬い歯と歯を睡眠中、長い間こすり合わせているため、当然さまざまな弊害が出てきます。
歯ぎしりが与える影響 | |
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歯への弊害 | 摩耗・破損・歯がしみる・歯が痛む |
歯周組織への弊害 | 歯周病(進行しやすくなる)・歯肉炎 |
顎周辺への弊害 | 顎関節症(痛み・音)・開口障害 |
身体への弊害 | 頭痛・顔面痛・肩こり・腰痛・自律神経失調症・倦怠感 |
歯ぎしりは、歯や顎などの直接的に負担がかかる部分だけでなく、頭痛や肩こりなど、さまざまな部分で弊害をもたらします。歯ぎしりや食いしばりがすべて原因であるとは限りませんが、リスクとなる可能性はあるため、早期に治療しておいた方が良いでしょう。
歯科医院における歯ぎしりの治療法は、睡眠時にマウスピースを使用して、歯ぎしりのダメージから歯や顎を守る方法が一般的です。歯ぎしりのマウスピース治療は保険適用で受けることが可能で、症状や状態に合わせたマウスピースをオーダーメイドで製作できます。
2.歯ぎしりを行うデメリット
歯ぎしりは、主に3つの種類があります。1つ目はギリギリとすり合わせるもの、2つ目は噛みしめるもの、3つ目はカンカンと噛んで音を鳴らすものです。これらすべてを行う場合もあれば、1つだけというケースもあり、特徴は人それぞれです。
では、歯ぎしりには一体どのようなデメリットがあるのでしょうか。下記に、歯ぎしりを行うデメリットを10個、詳しく説明します。
被せ物が取れる
歯ぎしりによって、歯の被せ物や詰め物が取れる可能性があります。一般的に詰め物・被せ物にはある程度寿命があるものの、歯ぎしりが癖の場合は寿命よりもかなり早い期間で劣化が見られるでしょう。根本的な治療ができない限り、「何度入れ替えたとしても対処療法でしかない」と言えます。
歯が横に広がる
歯が横に広がるのは、歯ぎしりだけでなく、噛みしめる癖がある場合に多い特徴です。歯を強力な力で噛みしめることで、顎の骨に本来であれば深く刺さっていきます。しかし、骨が割れる危険性があるため、歯が自衛して横に広がっていってしまうのです。 舌の裏側や鼻の下の部分を触ってボコッとした隆起があるようであれば、歯ぎしりをしている可能性が高いと言えます。なるべく早めに、歯科医院にかかりましょう。
エナメル質が削れて歯がすり減る
歯ぎしりは、歯同士を強い力でこすり合わせることとなるため、エナメル質が削れて歯の弱い部分がさらされてしまいます。エナメル質が削れた部分は、むし歯や歯周病に侵されやすくなっているため、より一層ケアを徹底することが重要です。
知覚過敏になる
歯ぎしりによって歯のすり減りがひどくなると、冷たいもの・温かいものなどが神経まで到達しやすく、しみる・痛みを感じるという、いわゆる知覚過敏になる可能性があります。研磨剤のない歯磨き粉を使う、知覚過敏用の歯磨き粉を使うなどで対処する必要があります。
顎への負荷がかかる
人間の噛む力は非常に強く、さらに無意識下では力の制限もかからないため、顎への負担が非常にかかります。筋肉はもちろん、骨や歯にも負担がかかることを覚えておきましょう。
歯根が割れる
歯の露出している部分はエナメル質に覆われていますが、歯の埋まっている部分(歯根)は、エナメル質に比べて非常にもろい性質を持っています。歯ぎしりをしている時間があまりに長ければ、歯根が割れてしまう可能性もあります。
歯周病(歯槽膿漏)になる
強い力で長い期間歯ぎしりをしていると、根元から揺さぶれられ続けるような形になるため、歯がぐらつくようになってきます。つまり、歯と歯茎の間に隙間ができてしまっているということです。
歯周病は歯茎と歯の間から入り込み、内側に細菌を送り込んで中を膿んだ状態にしてしまう病気です。中が膿んでしまえば、歯槽膿漏という状態に進行し、ひどい口臭に悩むことにもなります。また、口臭だけでなく歯周病菌が歯茎と骨を溶かし、歯が抜けてしまいます。
いくらケアしていても届かない領域に歯周病菌が住み着いてしまえば、歯科医院で定期的に歯と歯茎の間の歯垢をクリーニングし、歯周病菌の除去を行ってこれ以上進行しないようにすることが必要となります。
噛み合わせが崩れる
長い期間歯ぎしりをしていると、その力によって本来の噛み合わせが崩れてくる可能性も大いにあります。乱ぐい歯のようになっている場合は、歯ぎしりが原因になっていることも考えられるでしょう。
特定の歯に負担がかかり割れる
完璧な噛み合わせで均一な力をかけているようであれば、大きなダメージにはなりません。しかし、歯並びによっては特定の歯だけに大きな負荷がかかります。特定の歯だけに負担がかかると、その歯が割れてしまうこともあります。
骨が溶ける・割れる
歯槽骨と呼ばれる歯茎の下にある顎の骨が歯ぎしりによって負荷がかかって溶けていく、あるいは歯と同じように割れる場合もあります。
3.歯の寿命を延ばす歯ぎしりの治療方法
このようにさまざまなトラブルを引き起こす歯ぎしりの原因は、ストレスや遺伝、自律神経の乱れなどが挙げられます。
しかし、歯ぎしりのメカニズムがすべて解明されているわけではありません。原因を特定できないことも多いため、下記のような治療法を用いて解決することが一般的です。
マウスピース
物理的にマウスピースをかませることで、歯と歯がこすり合わされてすり減る事態を回避します。また、圧力も分散できるため、特定の歯が割れるなどの状態を起こしにくくしてくれます。
薬物療法
寝薬物療法として、漢方などでイライラを抑えるという治療や、歯ぎしりで痛みが出る場合に鎮痛剤などを飲むという治療もあります。
生活習慣の改善
タバコやアルコールの摂取量を少なくする、逆流性食道炎の改善をする、ストレスを溜めない生活をするなど、生活習慣を改善することで歯ぎしりの原因をなくします。
ボトックス注射
ボトックスを注入することで、筋肉をやわらげ、歯ぎしりしにくい状態にできます。
上記のように、歯ぎしりの治療には原因に合わせたさまざまな方法があります。まずは自分の原因を特定するべく、かかりつけの歯科医に相談してみることがおすすめです。自分に合った治療法を見つけて歯ぎしりを改善し、歯の寿命を延ばしましょう。
4.歯ぎしりの治療に使うマウスピースの種類
マウスピースには、主に「セルフで作るタイプ」「スポーツ用」「ナイトガード」の3つの種類があります。しかし、どのマウスピースでも歯ぎしりや食いしばりに効果があるわけではありません。
ここでは、歯ぎしり・食いしばりに悩む人に特におすすめとなる「セルフタイプ」「ナイトガード」の2つについて、概要や特徴から歯ぎしり治療への効果性とともに解説します。
4-1.セルフタイプのマウスピース
セルフタイプのマウスピースとは、沸騰させたお湯で温めた樹脂を歯に合わせて、自分で成型するという市販のマウスピースのことです。
手軽にマウスピースを入手・製作できるというメリットがありますが、実は歯ぎしりの治療という観点ではデメリットの方が大きいことが実情です。
自分で成型するセルフタイプのマウスピースは、歯科医療の専門的観点からの噛み合わせの調整ができません。うまく成型できたように感じても、実際には噛み合わせのバランスを崩し、歯や顎に負担をかける可能性も大いにあります。
噛み合わせは、僅かなズレでも歯や顎には大きな負担をかける原因となります。そのため、トラブルを招くおそれのあるセルフタイプのマウスピースは、歯ぎしりや食いしばりの治療には不適切であると言えるでしょう。
4-2.睡眠時専用のナイトガード
ナイトガードとは、睡眠時専用のマウスピースのことであり、睡眠中の歯ぎしりや食いしばりから歯や顎を保護するために使用するマウスピースです。歯科医院で製作できる歯ぎしり治療の器具として、保険の適用が認められています。
ナイトガードには、ハードタイプとソフトタイプの2つの種類があります。
ハードタイプ |
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ハードタイプは、硬い樹脂で作られた丈夫なナイトガードで、歯ぎしりや食いしばりで強い力がかかっても損傷しにくいことが特徴です。その反面、装着時の違和感や不快感が強い傾向にあります。 |
ソフトタイプ |
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柔らかい樹脂などで作られたナイトガードで、ハードタイプよりも調整が容易で装着時の違和感が少ないことが特徴です。その反面、歯ぎしりや食いしばりで損傷しやすい傾向にあります。 |
歯ぎしり・食いしばりに対して十分な効果を発揮するナイトガードは、ハードタイプです。まずはナイトガードの装着感に慣れるためにソフトタイプが選択されることもありますが、最終的にはハードタイプへ移行することが一般的です。
5.歯ぎしりの治療にマウスピースを使う3つのメリット
歯ぎしりの治療にマウスピースが推奨されている理由は、マウスピースを使うことで得られるメリットが大きいためです。ここでは、歯ぎしりの治療でマウスピースを使うことによる具体的なメリットを3つ、解説します。
マウスピースの製作や使用で迷っている人は、ぜひ参考にしてください。
5-1.寝ている間の歯ぎしりを確認できる
前述のとおり、歯ぎしりは睡眠中に無意識で行われるため、本人は歯ぎしりを行っていることをなかなか自覚できません。
しかし、マウスピースを使用することで、歯ぎしりにより削られた痕跡が少しずつ残るため、歯ぎしりを行っている事実を目で見て確認することができます。マウスピースは丈夫な強化プラスチックで製作されていますが、歯ぎしりや食いしばりの力は非常に強いため、必ず傷や削られた跡が残ります。
このように、歯ぎしりを行っていることを自覚できない場合は、マウスピースの痕跡で確認できることも、マウスピースを使用するメリットのひとつです。
5-2.歯ぎしりによる弊害を防止できる
歯ぎしりや食いしばりの力は非常に強く、歯や顎に継続的に強い負荷がかかることで、歯が削れるだけでなく、顎関節症や頭痛などのさまざまな弊害をもたらします。
人の噛む力は、上下の歯が噛み合った位置で最も強い力が入ります。マウスピースの役割は、この噛む力を弱めて、歯や顎への負担を軽減することです。
マウスピースを装着すると、マウスピースの厚みで噛み合わせが高くなるため、強い力で噛むことを防ぐことができます。また、歯と歯が直接噛み合うことを防ぎ、強い負担から歯を保護することができます。
歯や顎への負担を軽減することで、歯ぎしりや食いしばりによるさまざまな弊害を防止できることが、マウスピースの最大のメリットと言えるでしょう。
5-3.噛み合わせの調整を正しく行える
噛み合わせは成人後も変化する性質を持ち、偏った噛み方や高い負荷により少しずつずれていきます。そのため、継続的・長期的な歯ぎしりや食いしばりの習慣がある人は、噛み合わせにも悪影響を与えている場合があります。
噛み合わせの異常は口腔内だけに留まらず、顎関節をはじめ全身の骨格が歪む原因にも繋がるおそれがあるため、注意が必要です。
歯科医院のマウスピースは、本来の噛み合わせに適合するように製作されるため、装着することで噛み合わせのズレを調整することができます。また、噛み合わせがズレることを予防することもできます。
このように、正しい噛み合わせをサポートできることも、マウスピースを使用するメリットのひとつです。
6.歯ぎしりの治療にマウスピースを使う3つのデメリット
歯ぎしりの治療にマウスピースを使うことは、メリットだけでなくデメリットもいくつかあります。しかし、歯ぎしりにより引き起こされる弊害や今後のリスクを考えると、デメリットよりもメリットの方が大きいことは明白です。
ここでは、歯ぎしりの治療にマウスピースを使うデメリットと、デメリットを軽減する方法についてそれぞれ解説します。
6-1.コストがかかる
歯ぎしりの治療に使用するマウスピースは、既製品ではなく患者さんの歯ぎしり・食いしばりの状況や噛み合わせに合わせて製作する必要があります。
そのため、歯型を取る・完成後のマウスピースの噛み合わせを調整するといった手間や、製作費や診療費といったコストがかかることがデメリットです。
しかし、マウスピース治療には保険適用が認められており、患者さんの自己負担は5,000円前後で済むため、そこまで大きな負担となることはないでしょう。
6-2.慣れるまでに時間がかかる
マウスピースを使い始めた初期は、違和感や不快感があるという意見が多くあります。睡眠時に装着するため、口腔内の不快感から寝付けない人や、起きた時に顎の痛みやだるさを感じる人もいます。
しかし、違和感や不快感がある時期は最初の頃だけで、1週間から半月程度経過すると、徐々にマウスピースの装着感に慣れ、違和感や不快感も少しずつ落ち着いていきます。
一定期間我慢すれば慣れるという事実をあらかじめ知っておけば、多少違和感や不快感があっても使い続けることができるでしょう。
どうしても違和感や不快感が続く場合は、マウスピースを調整した方が良い場合もあるため、一度歯科医院で相談してみることをおすすめします。
6-3.定期的なメンテナンスが必要である
マウスピースは、日々の歯ぎしりや食いしばりで徐々に削れるため、装着時の噛み合わせも徐々にズレてしまいます。そのため、マウスピースは一度製作すれば永続的に使用できるわけではなく、歯科医院にて定期的な調整やメンテナンスが必要です。
マウスピースのメンテナンスの周期は、3~4ヶ月に1回程度が目安となります。口腔内の歯石取りや歯科検診を兼ねれば、さほど手間や時間は必要ないでしょう。
また、口腔内に入れるマウスピースを衛生的に使用するためには、毎日のセルフメンテナンスが必要となりますが、煮沸消毒を行うと熱で変形してしまう場合があります。マウスピースを長く使用するためには、入れ歯洗浄剤等の素材にダメージを与えない方法で消毒を行いましょう。
まとめ
歯ぎしりや食いしばりは、歯は顎に強い負担がかかるため、さまざまな弊害をもたらします。歯の寿命や全身の健康への影響もあるため、睡眠時に歯ぎしりや食いしばりがある人は、早めの対策を行うことがおすすめです。
歯ぎしり治療の要として使用されるマウスピースは、コストや手間がかかるといったデメリットがあります。しかし、歯ぎしりによる弊害を防ぐメリットの方がはるかに大きいことは明白です。
歯ぎしりや食いしばりは、長期化するほど多くの弊害を受け、またダメージも大きくなります。現在歯ぎしりで悩んでいる場合は、早めに歯科医院を受診し、専用のマウスピースを製作してもらいましょう。